緊張が隣の人に悟られないように、僕は手前にあるダリアから目を離さなかった。幾枚もの花弁が花を丸く形づくり、薄紫は中心から外側へいくにつれてより薄くなっていた。
多分僕は今、ダリアに一目惚れした男に見えている。何気なく立ち寄っただけなのに、もう数秒後にはサイフの中身を確かめそうな男に見えているかもしれない。
違う。断じて僕は何気なくない。自作の小説に花屋のシーンがほしくて、空気感を知りたくて、ここに来たんだ。花を贈るアテなんてこれっぽっちも考えていないんだ。
隣の人が何の花を見ているか気になったので、チラッと視線を動かした。それがバレないように前かがみになって、目の動きが奥の店員さんに見えないようにして、ダリアの隣の花を見た。
名前は……なんとかター、だそうだ。隣の人の手がかぶってよく見えない。中心が黄色で、ダリアと同じく薄紫の花弁をしている。決定的な違いは花弁が細長いことだ。なんというか、儚い印象を受けた。
「この色いいですよね」
ドキッとしたけど、店員さんに対して言ったようなので、再び平静を装った。でも確かに、僕も良い色だと思う。紫というのは刺激の強い色というイメージがあるが、目の前のこれらはそれが薄いというよりかは、絶妙な淡さによって凡てに馴染んでいるのだ。花弁と、そこに触れる空気との境界線がない感じ。
「いやぁ、いい色だ」
「たしかに」
「ね、買ってしまおうかな」
「いいと思います」
「丸くてかわいいし」
「わかります」
隣の人はダリアを買って帰った。僕はアスターという名の花を抱えて帰ることにした。
あれ?